川本三郎の『大正幻影』 (ちくま文庫ほか)は良書である。谷崎潤一郎、佐藤春夫、芥川龍之介、永井荷風、梶井基次郎などの作家論を中心に据えながら、大正という時代の持つ淡い幻想性と一種の妖しさをとてもよく描いている。単なる文学史で終わることなく、時代背景を歴史的に眺めながら、いわば歴史家・社会学者の目で文学を眺めている。あっと驚く発見が多々あるが、なかでも大正文学の特性の一つとして「閉ざされた孤立した空間」を挙げていることが興味深い。
以下引用:
佐藤春夫、谷崎潤一郎、芥川龍之介、永井荷風らの作品を読んでいて気がつくひとつの特色は作品の場が、外部とへだてられた密室、閉ざされ孤立した空間に設定されていることが非常に多いことである。林の中の西洋風の家、路地裏の平屋、映画館、川べりの別荘、図書館、ホテル、昼でも薄暗い蔵、遊里・・・近代化が進み都市の中に社会化され開かれていく空間がふえていくなかで彼等はむしろ逆に外光が入り込まず、ひっそりとした暗がりが保たれている閉所を物語が生まれる場所として選び出す。
引用終わり
「元祖引きこもり」は大正時代から始まったのだ。
いまの日本では「引きこもり」の三人に一人は30歳以上となり「引きこもりの壮年化」が見られるという。大正文学がいま再び注目されるようになっているのも、むべなるかなだ。「引きこもり」が可能なのも時代が平和だから。大正の引きこもり世代も、昭和になれば否応なく過酷な現実に直面してしまい、とても引きこもりなんか出来なくなってしまう。いや、引きこもってばかり居たから、時代がヘンな方向に流れるのを阻止できなかったとも言える。
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